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ノウハウ(M&A)

中小企業の後継者不足解消へ!M&Aがもたらす未来の希望

 

黒字でも消える企業──深刻化する後継者不在の実情

日本経済の根幹を支える中小企業。全国の企業の99.7%を占め、雇用の約7割を担う存在ですが、今、その多くが「後継者不在」という深刻な課題に直面しています。特に問題視されているのが、「黒字廃業」の増加です。企業として利益を上げ、経営状態が健全であるにもかかわらず、後継者がいないために事業を継続できず廃業に至るケースが増えてきているのです。

ある調査によれば、多くの中小企業経営者が、後継者を決められていない状況にあります。特に経営者の年齢が高くなるにつれて、その傾向はより顕著になり、地方においては、後継者が決まっていない企業が大多数を占める地域も少なくありません。

企業の存続は、経済活動にとどまらず、技術や地域文化、雇用の継承とも密接に関わっていますので、事業に黒字が出ているのに廃業を選ばざるを得ない現実は、単に自社の経営の問題ではなく、社会全体の課題となるのです。

 

経営のバトンが渡せない──高齢化が突きつける現実

中小企業の経営者の高齢化は、いまや深刻な課題として現実のものとなっています。以前から「2025年問題」として指摘されてきたように、今年に入り経営者の多くが70代に突入し、後継者不在による事業継続の危機が顕在化しつつあります。

この問題の根底には、事業承継に対する準備の遅れがあります。後継者を見つけて育成し、引き継ぎの体制を整えるには最低でも数年を要します。しかし、現実にはその準備に着手していない企業が多く、突然の病気や引退により継続不能となるケースが後を絶ちません。

このような背景からも、早期に事業承継計画を立てることの重要性が注目されています。経営者としてのキャリアの最終章を「承継」に充てることが、企業の未来と社員の生活を守る鍵となるのです。

 

継がない選択をする若者たち──親族内承継の限界

かつては、企業は親から子へと自然に引き継がれていくものでした。しかし、近年では親族内承継が難しくなっているのが現状です。若い世代が事業を継ぐことに消極的な理由として、「将来性への不安」や「経営に対するプレッシャー」が挙げられます。

また、都市への人口集中により、地方の企業ではそもそも家業を継げる世代が地元に残っていないというケースも多くあります。さらに、価値観の多様化により、親と子の間で経営方針や働き方に対する考え方が異なる場合も少なくありません。こうした背景から、親族内承継は年々減少しつつあるのです。

 

解決策としてのM&A──事業承継の新たな選択肢

こうした中で注目されているのが、M&A(合併・買収)による事業承継です。後継者を自社内で確保できない場合でも、M&Aを活用することで、企業の存続と発展を図ることができます。

近年では「事業承継型M&A」として、M&Aを事業承継の一環として活用する動きが活発になっており、特に地方の中小企業においてこの傾向が顕著です。M&Aを活用することで、従業員の雇用を維持しながら企業の再成長を図ることが可能となり、地域経済への貢献という観点からもその意義は大きいといえます。

 

税務・財務面でのメリットと課題

M&Aの大きな利点の一つに、税務・財務の最適化があります。事業承継では、相続税や贈与税といった資産移転の問題が避けられませんが、M&Aによって株式売却などの形を取ることで、経営者は現金収入を得ながらスムーズな引退を実現できます。

さらに、一定の条件を満たすことで、税制優遇措置の適用を受けられる場合もあります。例えば、事業承継税制の活用により、株式の譲渡にかかる税負担を軽減することができます。これらの制度を活用するには専門的な知識が必要となりますので、税理士や弁護士など専門家との連携しながら話を進めていくのが良いでしょう。

 

企業の“未来力”を高める──組織の見直しと支援制度の活用

事業承継を単なる経営者交代のプロセスではなく、企業文化や働き方、経営ビジョンを見直す契機として捉えることも重要です。デジタル化の推進や柔軟な働き方の導入、社員の意見を反映した組織運営を通じて、次の世代が魅力を感じる企業に生まれ変わることが可能です。

また、政府や自治体もこうした流れを後押しするための支援制度を整備しています。中小企業庁が運営する「事業承継・引継ぎ支援センター」では、無料相談やM&Aマッチング支援を受けられますし、金融機関や商工会議所も支援ネットワークの一翼を担っています。

 

承継を成功へ導く“意識のバトン”──経営者と後継者が変わるとき

最も重要なのは、経営者と後継者候補の双方が、事業承継に対して前向きな姿勢を持つことです。経営者は、自身の引退を現実的に見据え、早期に承継計画を立てる必要があります。一方で、後継者となる人材も、「経営は自分には無理」と諦めるのではなく、専門知識を学び、自分なりの経営スタイルを築いていくという覚悟が求められます。

このような意識改革が進むことで、事業承継が単なる義務や負担ではなく、「次世代の挑戦」として認識されるようになり、より多くの企業が持続可能な成長を実現する道筋を描けるようになります。

後継者問題は単に「跡継ぎがいない」ことにとどまらず、企業経営の本質や地域社会全体に関わる重大な課題です。中小企業が未来に希望を持って存続・発展していくためには、計画的な事業承継の推進と、そのプロセスを支える環境整備、そして関係者全員の意識改革が不可欠です。M&Aはその有力な手段の一つであり、今後ますます重要な役割を果たすことになるでしょう。