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ノウハウ(店舗)

飲食店・出店計画──成功の確率を上げるための「準備」

飲食店を出店することは、大きな夢であると同時に大きな挑戦でもあります。店舗を構えるというのは単なる「スタートライン」にすぎませんが、その準備段階で勝負が決まると言っても過言ではありません。飲食店出店を成功させるために、計画段階で押さえておきたい重要なポイントをいくつかご紹介します。

 

立地選定は数字と現地調査の両輪で考える

「立地が9割」と言われるほど、場所の選定は飲食店成功の重要な鍵です。しかし、単に人通りが多い、駅から近いといった条件だけでは不十分です。重要なのは、その場所にどんな人がどんな時間に、どんな目的で集まっているかという、より深い視点での調査です。

 通行量のデータだけでなく、時間帯ごとの客層、競合店の業態と客入り、周囲のオフィスや住宅の比率などを踏まえて判断することが重要になります。また、現地での観察を数日間行い、曜日や天候による動向の違いも確認しておくと安心です。数字と実感の両面から「この立地にこの業態はマッチするか」を見極めることが、出店後の安定経営に繋がります。

  

明確なコンセプト設計が、すべての軸になる

出店計画には、『明確で一貫性のある「コンセプト」』が必要です。これは、「どんなお客様に、どんな体験を提供するか」という問いに対する答えであり、店舗設計・メニュー構成・価格設定・サービス方針・内装デザインなど、すべての要素に影響します。

 コンセプトを決める際は、「年齢層」「性別」「利用シーン(例:ランチ利用・デート・仕事帰りの一杯)」など、具体的なターゲット像を設定するとよいでしょう。そして、そのターゲットが求める価値を深く掘り下げ、「価格」「雰囲気」「スピード」「特別感」など、どこに重点を置くかを明確にしていきます。

 コンセプトが曖昧な店舗は、提供する価値が伝わりづらく、リピート率が低下する傾向があります。誰の心に刺さる店にしたいのかを明確に言語化することが、計画段階で最も重要な工程の一つです。

 

資金計画は“現実的”かつ“余裕ある設計”を心がける

出店において資金は血液のような存在です。内装費や厨房機器、人件費などの初期投資はもちろん、オープン後数ヶ月間は赤字が続く可能性も踏まえて、十分な運転資金を確保しておくことが必要です。

 おすすめしたいのは、『余白を持たせた資金設計』です。目一杯使い切るような予算組みは非常にリスキーで、万が一トラブルや想定外の支出があった場合に立ち行かなくなります。たとえば、出店に必要な資金を総額で算出したら、そこから30%前後の予備資金をプラスすることを検討すると安心です。

 また、売上が立ち上がるまでの期間を想定し、最低でも3ヶ月〜6ヶ月間は赤字でも回せる運転資金を確保しておくと、精神的にも安定して運営が可能です。

  

人材戦略は「出店前」から準備を始めるべき

どれだけ立地や商品力に優れていても、店舗運営は「人」によって支えられています。オープニングスタッフの採用と教育は、出店計画において軽視できない要素です。

 まずは、信頼できるキーパーソン(料理長、店長、マネージャーなど)の確保が先決です。そのうえで、オープニングスタッフの募集には最低でも2ヶ月程度の準備期間を確保し、接客トレーニングや理念共有の機会を設けることをおすすめします。

 また、求人段階から店舗のコンセプトを明確に伝えることで、理念に共感してくれる人材を集めやすくなります。働く側にとっても「この店で何を提供したいのか」が明確であるほど、モチベーションは高まりやすいものです。

  

マーケティングと販促は“出店後”を見据えた設計を

「良い店を作れば自然にお客様は来る」──そう考えて成功を収める経営者もいますが、現代の飲食業界では、出店直後の打ち出し方が集客の初速を大きく左右します。

 

出店前からSNS、地域情報サイト、インフルエンサー連携などを活用して情報発信を始めるとともに、オープン後の来店動機となる施策(オープニングキャンペーン、口コミ投稿特典など)を設計しておくことが新規の顧客獲得に繋がります。さらに、単発で終わらず「再来店」につなげる仕組み(スタンプカード、LINE公式アカウント、DM送付など)も早期に整えておくと、立ち上がり後の安定度が増します。

  

最後に──「夢」ではなく「戦略」で出店を

飲食店の出店は夢の実現である一方、非常にシビアなビジネスです。しかし、適切な準備と冷静な判断を積み重ねることで、成功の確率は確実に上がります。

 「想い」だけで突き進むのではなく、「数字」「人」「時間」「価値」の4要素を丁寧に積み上げていくこと。それが、継続的に愛される飲食店を生み出す土台となるのです。

 

出店はゴールではありません。持続可能な「日常の経営」のスタートです。だからこそ飲食店経営において、出店計画は最も真剣に考えるべき戦略なのです。