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富裕層と美術品──数字だけでは測れない「見て楽しむ資産」の話

毎日の生活を豊かにする、美術品という選択肢

富裕層と美術品というと、「お金が余っているから買っている」というイメージがあるかもしれません。
ところが実際に話を聞いてみると、もっと率直で人間くさい動機が見えてきます。

現金と株だけが増えても、画面の数字が膨らんでいくだけで、あまり気持ちが動かない。せっかく築いたお金なら、目に見えるかたちで楽しみたいし、毎日の生活をちょっと豊かにしてくれる“何か”に変えたい。そんな気持ちが、美術品という選択肢につながっています。

リビングにひとつ作品が入るだけで、部屋の空気感はがらっと変わります。そこに「これはどこで出会って、どういう経緯で手に入れたのか」という物語が乗ってくると、その作品は単なるインテリアではなく、持ち主の人生を映す鏡のような存在になっていきます。

美術品は「見栄」ではなく、ちゃんと資産でもある

もちろん、美術品は“見栄の道具”としても機能します。応接室やオフィスに飾られた一点は、その企業やオーナーの格を無言で演出してくれます。ただ、美術品はそれだけでは終わらず「資産」としての顔も持っています。

評価の定まった作家の作品であれば、世界中に買い手が存在し、オークションやギャラリーを通じて市場で取引されています。株式や債券と違って毎日価格が表示されるわけではないものの、長い目で見れば、インフレや通貨価値の変動に強い“目に見える資産”として機能してきました。

さらに、株や債券、不動産とは値動きのリズムが違うという点も見逃せません。金融市場が不安定なときに、アート市場が意外と底堅い、という場面もあります。ポートフォリオの一角に美術品を置くことで、「お金の置き場所を分散させる」という発想が取りやすくなるわけです。

一番のリスクヘッジは「本当に好きかどうか」

とはいえ、「値上がりしそうだから買う」というスタートは、やはり危険です。作家の評価もトレンドも変わりますし、「これは将来必ず上がりますよ」という言葉だけを信じてしまうと、数年後に期待外れの結果になることもあります。

そこで頼りになるのが、いちばんシンプルな基準です。
その作品を、自分は本当に好きかどうか。家に飾ったとき、毎日見たいと思えるかどうか。ゲストに「これ、いいね」と言われたとき、嬉しくなるかどうか。

もし市場価格が思ったほど伸びなかったとしても、作品を見るたびに気分が上がり、家族との会話が増え、来客とのアイスブレイクになっているのであれば、それはすでに十分な“リターン”を生んでいるとも言えます。長く美術品と付き合っている方ほど、「投資対象である前に、自分の生活を豊かにしてくれるものか」という視点を大事にしています。

「集める」ことは、自分のブランドをつくること

作品が1点、2点と増えていき、やがて10点、20点と並び始めると、それは単なるコレクションではなく、持ち主の世界観そのものになっていきます。

たとえば、現代アートの若手作家ばかりを集める人もいれば、日本の作家にこだわる人、女性作家だけを意識的に選んでいる人、自分が仕事で縁のあった街の作家だけを集める人もいます。テーマは人それぞれですが、共通しているのは、「自分は何に心を動かされるのか」を作品を通じて整理しているという点です。

ある程度のボリュームと一貫性が出てくると、そのコレクション自体が一つのブランドになります。美術館やギャラリーから展示の打診が来ることもあれば、会社のブランディングや採用活動の場で活用されることもあります。「作品を持っている人」から、「文化を発信する側」に、立ち位置が自然とシフトしていくのです。

自己流で突っ込むには危険すぎる世界

一方で、美術品の世界には注意点も多くあります。真贋の問題、相場感、保管や保険の手当、海外輸送の実務、そして税務や相続での扱いなど、どれも「なんとなく」では済まされないテーマです。

この部分を軽く見てしまうと、高額な作品を買ったあとに「売りたくても売れない」「思った以上に維持コストがかかる」「相続のときに予想外の負担が出た」といったことが起こりえます。

実務面では、ギャラリーやオークションハウスだけでなく、第三者的なアートアドバイザー、そして税理士・弁護士などの専門家をチームとして組み合わせる発想が欠かせません。「売る側」だけの情報をうのみにせず、買い手の立場で助言してくれる人をどこまで巻き込めるかで、美術品との付き合い方の質は大きく変わります。

お金と人生をつなぐ道具としての美術品

美術品は数字の上では確かに資産ですが、それだけでは言い表せません。日々の生活空間を豊かにする存在であり、自分や家族の価値観を目に見える形にしたものでもあります。ときには次の世代に託すメッセージになり、社会との接点や文化への貢献のかたちにもなります。

資産と人生の両方をどう設計していくかを考えるなかで、美術品をどこに置くか。企業としてお客さまの資産形成や承継をお手伝いする立場から見ても、アートは今後ますます無視できないテーマになっていくはずです。

数字だけでは測りきれない「豊かさ」をどのようにつくるか。その一つの答えとして、美術品との距離感を考えてみることは、富裕層にとって非常に現実的な選択肢と言えるでしょう。

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