飲食店×インバウンド 「わかる・選べる・安心できる」店にする

訪日客が戻り、多くの店がインバウンドを意識する中、英語メニューや翻訳アプリだけでは“選ばれる店”にはなりません。
選ばれるために大切なのは、来店前から退店後までの体験を「わかる・選べる・安心できる」の三つの視点で組んでいくことです。このコラムでは、来店前/来店時/食事中/会計/退店後の順に、現場でそのまま使える手順で紹介します。
来店前―“見つかる導線”を作る
来店の出発点は検索結果です。まずはGoogleビジネスプロフィールの基本情報を正確に保ちましょう。営業時間・定休日・臨時休に加え、最寄駅と出口、徒歩分数、目印を英語で書く。「Shibuya Station Hachiko Exit, 3 min」だけで見知らぬ街への不安が下がります。
写真は“判断するための材料”を優先。入り口が分かる外観、代表的なメニューと価格帯、店内や席、支払い手段。この4つの要素がそろっていれば、旅行者は「行けるかどうか」を判断できます。
口コミには短くても良いから返す。「辛さ調整できます」「ベジ対応は2品あります」など、具体性が信頼を生みます。
入口で迷いをゼロにする
店の前まで来たからといって、来店してくれるとは限りません。営業中/満席、並び方、待ち時間目安、ベビーカー・車椅子の案内はピクトグラム+簡単英語で掲示。QRの順番待ちがあれば、列を離れても復帰のタイミングがわかり離脱が減ります。
案内時は「Welcome! Table or counter?」「Any allergies?」で十分。この一言がコミュニケーションの不安をほぐします。
メニューは翻訳より“理解”を重視
メニューは翻訳の正確さより、理解を促し、迷わず選べる構造にします。定番(安全)、日本らしい一品(冒険枠)、シェア皿(グループ)の三層で構成し、辛さ・量・アレルゲンはアイコンで可視化。紙のメニューは簡潔に、QRで多言語の詳細へ。
税込表示・サービス料の有無・ミニマムチャージを最初に明記し、日本はチップ不要であることも一行添える。これだけで注文点数と満足度が上がります。
食事中の体験を一文で言語化
食事も旅行での体験の一部です。料理の背景を一言で伝えたり、出汁や麹、旬の産地、器の意味など「おいしい理由」を短い英語で添えると、食事が物語に変わります。
水や箸・ナフキンがセルフか、写真撮影はOKか、フラッシュは可か。文化差が出る“暗黙の了解”は卓上に明文化した案内を置くとスタッフの説明負担が減り、ぎこちなさが消えます。
会計は世界基準で安心に
会計での戸惑いはせっかくの良い体験を壊しかねません。主要クレジット・交通系、可能な範囲で海外ウォレットに対応し、入口とレジに同じ掲示します。テーブル会計かレジ会計かはサインで統一し、英語のレシートにも応じる。最後に「No tipping in Japan. If you liked us, please leave a review.」と微笑んでQRを手渡せば、食事の体験は気持ちよく幕を閉じます。
退店後はレビュー導線でつなぐ
旅は移動が仕事です。レシートや卓上POPにGoogle/TripadvisorのレビューQRを置き、ひとこと依頼する。季節の限定商品、姉妹店、空港や主要駅からのアクセスを記した小さなカードを渡せば、帰国後の思い出にあなたの店が残ります。近隣の寺社や美術館、公園へのアクセスも短く紹介できるとなお良いです。「午前は神社、昼は当店の〇〇、午後は美術館」のように、時間の地図を提案しましょう。
全員が言える5つの定型句を用意
完璧な英語は不要です。迷いなく口にできる定型句こそ武器になります。
Welcome! How many?
Any allergies or dietary restrictions?
Mild / Regular / Spicy. Which do you prefer?
Pay at the register, please.
Thank you! Enjoy your trip.
発音より笑顔での迅速な対応が安心をつくります。
混雑時でも品質を落とさない仕組み
店が混雑しているときは、満足度を落とさない仕組みが必要です。行列は最大〇組・滞在目安〇分を見える化し、ピークはテイクアウトへ誘導。人気メニューは“10分で出せる工程”に分解して写真と共に厨房に掲示します。換気・油の匂い・BGM音量は国籍を超えて満足度に直結します。
大がかりな施策より、成果を週次で3指標で回す定点観測が効きます。
集客:外国人比率/回転数/待ち時間中央値
評判:英語レビュー件数と★推移、写真の投稿数
商品:定番・冒険枠・シェア皿の販売比率
数字が示す“ボトルネックを一つ”だけ選び、翌週の打ち手に落とす。たとえば冒険枠の売れが鈍ければ、写真・説明文・配置の3点を差し替える。待ち時間が伸びるなら、順番待ちQRの復帰時間やテイクアウト導線を調整する。改善は小さく、しかし毎週。
インバウンド対応は語学の勝負ではなく設計の勝負です。検索で“見つかる”、入口で“迷わない”、メニューで“選べる”、会計で“安心できる”、退店後に“語りたくなる”。この5つが回り始めれば、レビューが増え、再訪と紹介が循環します。
