フレームワークを活用する経営者の戦略術
競争力を高める思考の構造化
経営者の仕事は何か?──そう問われたとき、多くの人が「意思決定」と答えるでしょう。日々の意思決定の背後には、無数の選択肢、リスク、環境変化、そして経営資源の限界が存在します。情報過多の現代社会においては、直感や経験だけでは通用しない場面も増えており、そこで経営者に求められるのが、「思考の構造化」であり、フレームワークの活用です。
フレームワークとは?
フレームワークとは、複雑な情報を整理し、問題の本質を見極め、最適な意思決定へ導く“枠組み”です。ビジネスの現場では「3C分析」「SWOT分析」「PEST分析」「バリューチェーン分析」など、数多くのフレームワークが使われています。これらは戦略を可視化し、組織を動かすための強力な武器となります。
例えば、市場環境の変化を読み解くには「PEST分析」が有効です。政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)という外部環境の4要素を分析することで、企業が置かれているマクロ環境のリスクやチャンスを見える化ですることができます。日本企業で言えば、少子高齢化や労働人口減少は明らかな社会的変化であり、これを無視した戦略は成立しえません。
自社の立ち位置を確認するには「SWOT分析」が基本となります。自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)、市場における機会(Opportunity)と脅威(Threat)を整理し、成長戦略の方向性を明らかにしていきます。たとえば、地方に根差した中小企業が「地域密着の顧客基盤(強み)」を持ちながら、「デジタル対応の遅れ(弱み)」に苦しんでいると仮定すると、この状況で、「リモート商談の普及(機会)」を捉えてIT投資を進めなければ、「大手による地方進出(脅威)」に飲み込まれてしまうことになります。フレームワークは、このような因果関係を整理し、優先すべき戦略を浮かび上がらせる一助となります。
競争環境の把握においては、「5フォース分析」が有効です。業界内の競合、代替品、新規参入、買い手、売り手の5つの力が市場での競争を形づくるという考え方です。たとえば、価格競争が激化している業界では、新規参入を許さない参入障壁や、自社だけの差別化要素を築くことが戦略のカギとなります。5フォース分析は、自社が戦う市場の構造を客観的に見つめ、持続可能な競争優位を築くことに繋がるでしょう。
経営に活かせるフレームワーク
ここで重要なのは、フレームワークを「知っていること」と「使いこなすこと」はまったく別物だということです。多くの経営者やマネージャーは、MBAや研修でこれらの分析手法に触れるが、実務で使うとなると途端にうまく機能しないことも多くあります。それは、フレームワークを「正解を導くツール」と誤解しているからです。
フレームワークは、あくまで「問いを立てるための補助線」に過ぎません。その問いに対して、現場のデータ、顧客の声、自社の文化を踏まえて答えを導き出すのが経営者の役割である。つまり、フレームワークは、自社の現実に即してカスタマイズされ、社員にも伝わる言葉に翻訳されて初めて「使える」ものになるのです。
実際、フレームワークの真の価値の一つは、「社内の共通言語」の役割を担うことにあります。たとえば、ある企業が新規事業を検討する際に「3C分析(顧客、競合、自社)」を使って議論すれば、営業部門と開発部門、人事部門が共通の視点で意思決定に参加することができます。その結果、議論の質が高まり、組織全体が戦略を“自分ごと”として動き出すことができます。
結局のところ、フレームワークとは「経営者の思考を支えるインフラ」です。直感だけに頼らず、思考を“見える化”し、組織に伝える力を経営者が持っていれば、競争の激しい市場でも勝ち残っていくことが可能です。フレームワークを「知識」から「実践知」へと昇華させることこそ、経営者に求められる戦略術なのです。