コラム

事業承継や経営に役立つ
コラムを配信します。

ノウハウ(M&A)

専門用語なしで掴む「M&Aスキーム」の種類と、失敗しない選び方の極意

M&Aの話題になると必ず飛び交う「スキーム」という言葉。アドバイザーや専門家が「今回のM&Aスキームは〜」と語り始めると、なんだか難解な話のようで、少し身構えてしまう経営者の方も多いのではないでしょうか。

「スキーム」とは、日本語に訳せば単なる「手法」や「やり方」のことです。決して一部のエリートだけが使う特別な言葉ではありません。しかし、この「スキーム」の選び方を一歩間違えると、後から「こんなはずじゃなかった!」と税制面で大きな損失を被ったり、思いもよらない法的なトラブルに巻き込まれたりする、非常に重要な意思決定ポイントでもあります。

今回は、経営者として最低限知っておきたい「M&Aスキーム」の全体像を、現場のリアルな視点を交えながら分かりやすく解説します。

スキーム選びは「家をどう売るか」に似ている

M&Aスキームを理解する一番の近道は、会社を一つの「家」に例えてみることです。

家そのものを土地ごと丸ごと売却するのか。それとも、家の中にある価値の高い家具や最新の家電、あるいは特定の部屋の所有権だけをピックアップして売るのか。あるいは、隣の家と壁をぶち抜いて一つの巨大な邸宅にするのか。M&Aもこれと全く同じ発想です。会社の「何を」「どのように」相手に引き渡すのかを決める設計図こそが、M&Aスキームの正体です。

代表的な手法は大きく分けて「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」「会社分割」の4つがあります。名前は堅苦しく聞こえますが、その実態を紐解けば、それぞれの役割が明確に見えてくるはずです。

会社を丸ごと引き継ぐ、中小企業M&Aのスタンダード「株式譲渡」

日本のM&A、特に中小企業の売買において圧倒的なシェアを誇り、基本中の基本となるのが「株式譲渡」です。先ほどの家の例で言えば、「家を土地ごとそっくりそのまま売却する」方法に当たります。オーナー経営者が保有している会社の株式を、買い手に譲渡して対価を受け取るという、非常にシンプルで明快な形です。

このスキームが多くの現場で選ばれる最大の理由は、手続きが非常にスピーディーで手間が少ない点にあります。買い手は株式を取得するだけで、会社の経営権を丸ごと手に入れることができます。従業員との雇用契約や取引先との契約関係、事業に必要な許認可なども、原則としてそのまま引き継ぐことが可能です。現場の混乱を最小限に抑えつつ、スムーズにバトンタッチができる手法と言えるでしょう。

また、売り手側の経営者にとっても大きなメリットがあります。それは税制面での優遇です。個人が会社を売却して得た利益(譲渡益)に対する税率は、他の所得とは分離して約20%に抑えられます。長年育ててきた会社をきれいに譲り、創業者利益をしっかり確保してセカンドライフへ進みたいと考える方にとって、株式譲渡は非常に合理的で魅力的な選択肢となります。

必要な事業・資産のみをピンポイントで売買する「事業譲渡」

会社を丸ごと譲渡する「株式譲渡」に対し、特定の事業だけを切り出して売買するスキームが「事業譲渡」です。「多角化している事業のうち、不採算の部門は残し、成長性の高いこの部門だけを譲渡したい」といったケースで真価を発揮します。例えるなら、家の中の「特定の部屋や、価値のあるコレクションだけを売る」ようなイメージです。

買い手側の視点に立つと、この手法には強烈なメリットがあります。それは「リスクの遮断」です。株式譲渡では会社を丸ごと引き受けるため、目に見えない借金や将来のトラブルの種まで引き継いでしまうリスクがゼロではありません。しかし、事業譲渡であれば、必要な資産や事業だけを選んで買収できるため、負債や不要な契約を切り離してクリーンな状態で引き受けることができます。

一方で、実務上の負担が重くなる側面も無視できません。事業譲渡は「資産の売買」という形式を取るため、従業員一人ひとりと再雇用契約を結び直したり、取引先と改めて契約を締結したり、さらには許認可を再取得したりといった、極めて煩雑な手続きが必要になります。また、売却益は「会社」に入るため、法人税が課される点にも注意が必要です。メリットと手間のバランスを慎重に見極める必要があります。

大掛かりな組織再編を伴う「合併」と「会社分割」

ニュースなどでよく耳にする「合併」は、二つ以上の会社が完全に一つの法人になるスキームです。隣の家と合体して一つの大きな建物を造るようなもので、スケールメリットの追求や市場シェアの拡大を狙う大企業同士の統合でよく用いられます。ただ、人事評価制度やITシステム、さらには企業文化までをも融合させる必要があるため、完了までには膨大なエネルギーと時間を要します。

一方「会社分割」は、会社の一部を切り離して別の会社に移転させたり、新しく設立した会社に承継させたりする手法です。事業の一部を渡すという意味では「事業譲渡」と似ていますが、大きな違いは法的な「包括承継」です。契約関係や権利義務を一つずつ結び直す必要がなく、法律の定めに従ってまとめて引き継ぐことができるため、組織の切り分けを効率的に行いたい場面で有効です。ただし、どちらの手法も法的な手続きが非常に厳格で複雑なため、中小企業の一般的な売却案件では、まずは株式譲渡から検討を始めるのが現実的でしょう。

自社にベストなM&Aスキームを見極めるコツ

結局のところ、どのM&Aスキームが正解なのでしょうか。その答えは、「あなたが今回のM&Aを通じて、どのような未来を実現したいか」という目的に完全に依存します。

「なるべく手間をかけず、手取りを最大化してハッピーリタイアしたい」のであれば、株式譲渡が第一候補になるでしょう。「不採算部門を整理し、主力事業をより強いパートナーに託して存続させたい」のであれば、事業譲渡や会社分割が選択肢に入ってきます。

ここで大切なのは、専門家の提案を鵜呑みにしすぎないことです。アドバイザーの中には、あえて複雑なスキームを組むことで手数料を正当化しようとしたり、自身の得意な手法に誘導したりするケースも残念ながら存在します。スキームはあくまで目的を達成するための「手段」に過ぎません。

自社を守るためには、スキームの知識に加えて、サポートを依頼する専門家の種類や報酬体系についても知っておくことが重要です。

▼あわせて読みたい

M&AのFA報酬とは?仲介会社との違いをわかりやすく解説

自社の現状、買い手のニーズ、手続きの工数、そして何より「最終的な手残り額」に直結する税金のバランス。これらを冷静に比較検討し、最もシンプルで双方が納得できる形を選ぶことこそが、M&A成功の絶対条件です。

M&Aスキームという言葉の響きに圧倒される必要はありません。それは、大切な会社の未来をどのように形作るかという、経営判断そのものです。難解な用語に惑わされることなく、「何を・誰に・どのように託すのが、会社と従業員、そして自分自身にとって幸せか」という本質的な問いから始めてみてください。最適な答えは、必ずその先にあります。

関連記事

M&Aのスキーム(手法)について理解が深まったら、次に気になるのは「会社の値段(買収価格)」がどのように決まるのか、というポイントではないでしょうか。

決算書の数字だけでは決まらない、M&Aならではの価格決定の裏側や評価手法について、以下のコラムで分かりやすく解説しています。スキーム検討とあわせて、ぜひ参考にしてください。

これで納得!M&A買収価格の決定プロセスを徹底解説

 

「4C’s事業承継サービス」とは

4C’sパートナーズが提供する居抜き物件の出店・居抜き売却・M&Aによる事業承継を検討する方に向けて、最適な支援企業をご紹介するサービスです。
複数の支援企業を比較・検討できるため、目的や状況に応じた最適なパートナー選びが可能です。