コラム

事業承継や経営に役立つ
コラムを配信します。

ノウハウ(M&A)

M&Aにおける「会社の値段」はどう決まる?〜時価純資産とEBITDA倍率から読み解く企業評価の仕組み〜

企業の成長戦略や、後継者不在による事業承継の解決策として、M&A(企業の合併・買収)はごく一般的な経営手法として定着しました。それに伴い、「自社の企業価値は、いったいいくらになるのだろうか?」と関心を寄せる経営者の方も増えています。

上場企業であれば、日々の株価を見ることで会社の時価総額(市場での評価額)を一目で把握することができます。しかし、未上場の企業には株価という明確な「値札」がありません。では、M&Aの実務において、企業の価格は誰がどのように算定しているのでしょうか。

実は、M&Aの価格算定(バリュエーション)には、世界的に共通する一定の論理と指標が存在します。本コラムでは、M&Aの現場で必ず登場する2つの重要指標、「時価純資産」と「EBITDA(イービットディーエー)倍率」に焦点を当て、会社の値段が決まるメカニズムを分かりやすく解説します。

1. 企業が保有する「現在の財産価値」を測る:時価純資産

企業価値を評価する際、最も基本となるアプローチの一つが、会社が現在保有している資産に着目する手法です。その代表格が「時価純資産」をベースとした考え方です。

純資産とは、企業が保有する「すべての資産(現金、売掛金、土地、設備など)」から、「すべての負債(借入金、買掛金など)」を差し引いて残った、会社独自の財産のことを指します。しかし、ここで注意しなければならないのは、決算書の帳簿に記載されている数字(簿価)をそのまま鵜呑みにしてはいけない、という点です。

例えば、帳簿上は1,000万円で計上されている在庫が、実態としては陳腐化しており300万円の価値しかないかもしれません。逆に、数十年前に取得した自社ビルの土地が、周辺の開発によって当時の何倍もの価値に値上がりしているケースもあります。また、回収見込みのない不良債権が資産に紛れ込んでいる可能性もあります。

こうしたズレを一つひとつ精査し、現在の「リアルな市場価値」に引き直して純資産を再計算したものが「時価純資産」です。極端に言えば、「今すぐ事業を停止し、すべての資産を現金化して借金を完済した場合、手元にいくら残るか」を示す指標であり、これが企業価値の「最低限のベースライン」として機能します。

2. 企業の「未来の稼ぐ力」を測る:EBITDA倍率

時価純資産が「過去から現在までに蓄積された価値」だとすれば、企業を買収する側にとってもう一つ重要なのが「未来の稼ぐ力」です。M&Aの本質は、過去の財産を買うこと以上に、その企業が将来生み出す利益やキャッシュフローを獲得することにあるからです。

ここで登場する指標が「EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization)」です。 日本語では「金利・税金・償却前利益」と訳されますが、実務上はシンプルに「営業利益 + 減価償却費」で計算されることが多く、「本業で1年間にどれだけの現金を稼ぎ出しているか(キャッシュフロー創出力)」を示す指標として重宝されています。

なぜ純利益ではなく、わざわざEBITDAを使うのでしょうか。それは、法人税の税率の違いや、過去の設備投資による減価償却費のブレ、資金調達の方法(借入金利)といった、本業以外のノイズを排除するためです。これにより、同業他社との「純粋な事業の収益力」を横並びで比較することが可能になります。

M&Aの価格交渉では、「対象企業のEBITDAの何年分で買収金額を回収できるか」という観点から、「EBITDA倍率」という考え方が頻繁に用いられます。 業種や成長性によって異なりますが、一般的には「EBITDAの3倍〜8倍(3〜8年分)」が一つの相場とされています。収益基盤が安定している、あるいは高い成長が見込める企業ほど、この倍率は高く(価格は高く)評価されます。

3. 日本の中小企業M&Aの主流「時価純資産 + のれん」

実際の日本の未上場企業のM&A(特に中小規模の案件)では、これまで解説した2つの概念を組み合わせた以下のような計算式が、実務的な価格の目安として広く用いられています。

企業価値(価格の目安) = 時価純資産 + 営業利益(またはEBITDA)の3〜5年分

この「利益の数年分」として上乗せされる部分を、M&Aの専門用語で「のれん(営業権)」と呼びます。 企業の価値は、目に見える資産だけではありません。長年培ってきた「顧客基盤」「ブランド力」「優秀な人材」「独自の技術やノウハウ」といった、決算書には載らない無形資産が存在します。買い手は、この目に見えない価値に対して「のれん代」としてプレミアムを支払い、売り手は自社が築き上げてきた事業基盤を正当に評価してもらうことができるのです。

M&Aにおいて、条件交渉がまとまり「あとは契約を結ぶだけ」と安心するのは早計です。どれほど魅力的な決算書が提示され、素晴らしいシナジー効果が見込める案件であっても、企業の内部には外部から見えにくいリスクが潜んでいるケースが少なくありません。
買収後に発覚すれば致命傷になりかねない「地雷」を事前に発見し、回避するためのプロセスが「デューデリジェンス(買収監査)」です。詳細は下記リンクのコラムをご覧ください。

M&A買収を成功に導く地雷回避術! デューデリで確認すべき「3つの赤信号」とは

4. 最後に価格を決めるのは「買い手の戦略的価値(シナジー)」

ここまで論理的な価格算定の仕組みを解説してきましたが、M&Aの価格は数式だけで完全に決まるわけではありません。これらはあくまで「交渉のスタートライン」となる適正相場に過ぎません。

最終的な取引価格を大きく左右するのは、買い手側が抱く「どうしてもこの企業が欲しい」という戦略的なニーズと、それによって生まれる「シナジー(相乗効果)」への期待値です。 例えば、「この企業を買収すれば、手薄だった〇〇エリアの商圏を一気に獲得できる」「自社の製品を、対象企業が持つ強力な販売網に流せる」といった明確なシナジーが見込める場合、買い手は相場を大きく上回るプレミアム価格を提示してでも買収を決断することがあります。逆に、複数の買い手が競合(入札状態)すれば、価格はさらに釣り上がります。

M&Aにおける会社の値段とは、「客観的な財務数値(時価純資産・EBITDA)」という冷徹な計算と、「自社の成長にどう組み込むか(シナジー)」という経営者の熱量や戦略が交差点でぶつかり合って決まるものです。

「自社を譲渡する予定は当面ない」という場合でも、自社の時価純資産やEBITDAを把握し、M&A市場における「客観的な企業価値」を定期的に確認することは、自社の強みや経営課題を浮き彫りにする上で非常に有意義です。まずは一度、最新の決算書をもとに、自社の「現在地」を算出してみてはいかがでしょうか。

 

関連記事

長年手塩にかけて育ててきた自社を譲渡する際、「少しでも高い金額で評価してほしい」と考えるのは経営者として当然の心理です。しかし、「最も高い査定額を提示した企業」を選んだ結果、数年後に「こんなはずではなかった」と後悔する売り手経営者は後を絶ちません。

M&Aの真の成功とは、手元に残る金額の多寡だけで決まるものではありません。売却価格という目先の条件にとらわれず、企業文化の「相性」と事業の「継続性」を最優先に検討すべき理由と、本当に信頼できる買い手を見極めるためのポイントについては下記コラムをご参照ください。

M&A売却の成功は「査定額」では決まらない 最高値より「相性」と「継続性」を優先すべき理由


「4C’s事業承継サービス」とは

4C’sパートナーズが提供する居抜き物件の出店・居抜き売却・M&Aによる事業承継を検討する方に向けて、最適な支援企業をご紹介するサービスです。
複数の支援企業を比較・検討できるため、目的や状況に応じた最適なパートナー選びが可能です。